INTERVIEWTHECASTスノーボード平山雅一

全ては、スノーボーディングの為に。 平山 雅一の飽くなき探求心

THE CAST FILE NO.05 平山 雅一

あまりにも真っ直ぐに、スノーボーダー

MOJANEでは、いわゆるショップライダーという存在を必要としていません。それは、ライダーという言葉やイメージの枠には到底収まらないコアなユーザーに支えられているからです。今回は、そんな心強いスノーボーダーのひとり、平山雅一くんをご紹介します。

当ブログの見どころとなっているスノーボードギアのレビュー。平山くんによるユーザー目線の鋭い意見と丁寧な解説を見れば、彼がどれだけ真摯にスノーボードに取り組んでいるかを感じて頂けると思います。

平山くんのモットーは、力強くシンプルです。「自分らしく、気持ちよく、スノーボードを楽しむこと。」それは、ゲレンデでの圧倒的な表現力となり、仲間を刺激し続けています。

今回のインタビューでは、年齢を重ねライフステージが変化していく中でも自分の「好き」を貫き続ける事へのヒントもたくさんあると思います。

スノーボードに魅せられた1人の少年が、いかにして桁外れの情熱を注ぐようになったのか。平山雅一のストーリーに迫ります。

平山 雅一
平山 雅一 Masaichi Hirayama

INTERVIEWMASAICHI HIRAYAMA

出来ない事まで出来てしまう”ギア”の力

幅広い層に支持されるレビューの裏側

moro : 「モジェーンブログのレビューを参考にギアを選びました」、という声が少しずつ届くようになってきましたね。使用感に個人差が出るスノーボードギアのレビューは、単に沢山の道具を使い倒してきたというだけでは務まりません。平山くんにとって日頃から道具を比較・分析することは大事なことですか?

hirayama : 元々凝り性なのかも知れませんが、特にスノーボードに関しては「良い環境にしたい」っていう気持ちが強いんです。僕たちユーザーは皆、頑張って貯めたお金でやっと買うんですよ。一つ一つが高価な買い物なんです。だからとことん調べるし、納得するまで考えてしまいます。限られた資金で揃える道具選びに失敗したくないんですよね。

30代前半だったかな。ボードのアウトラインやデータでその特徴が分かるようになってきた頃、カタログを見ただけでボードを購入したことがありました。数字と解説文によると、正に自分が探していた!という内容だったんです。けど、いざ実物に乗ってみると、求めていた板とは全然違ったんですよね。結局その冬は乗り慣れた古い板ばかりに乗ってシーズンを終えました。試乗の大切さを改めて感じた年です。道具1つで自分の楽しさが大幅に変わる、そこは幸せにいきたいじゃないですか。だから道具選びに余念が無くなったんだと思います。

試乗会で感想を記録する平山くん

迷っている誰かの為に感じたままを残す

moro : 平山くんの試乗ノートは、どんなモデルに対してもびっしりと書き込まれていますよね。自分の好みだけでなく、どんな人に合うのか、どのギアなら性能を引き出せるのか。初心者から上級者までの幅広い視点にも信頼を置いています。何でもそつなく乗りこなしてしまう上級者や、パワーやテンションで乗りこなせるキッズもいますが、やはりそうじゃない人が大半で、みんな恐る恐る道具選びをしていると思うんです。僕はそういった人たちに是非ブログを読んでもらいたいと思っています。

hirayama : 毎シーズンこれだけたくさんのニューモデルがリリースされる中で、選び方が分からない人は多いと思います。そんな人たちの為に試乗会がある訳ですが、限られた時間に多くの人が試しに来ますし、狙っている板のポテンシャルが発揮される雪のコンディションとも限らない。そうすると、実際に乗った人の感想と自分の経験とを照らし合わせて推測しながら選ぶことになりますよね。そこで僕の意見が少しでも誰かのギア選びの助けになれば嬉しいです。だから、情報は出来るだけ多く、感じたままを詳しく言葉に残しておきたい。僕は取り回しが良くてフラットな板が好きだから、好みで言うと初・中級者向けの板も多かったりするんです。なので結果的に広いレベルの人たちから参考にしてもらえているのかなと思います。

試乗会会場でボードをチェックする平山くん

自分に合った道具を追求する理由

moro : 僕自身、若い頃は見た目やネームバリューだけで板を選んで、たくさん失敗してきました。例えばM3のツインチップ160。190cmの外人が乗るような板に当時は満足していたんです。パウダーにハマっている時に、バチバチに硬いスコッティウェイトレイク157を選んだ事もありました。理由はただカッコイイから。あの頃は憧れがそのまま格好良さだと思っていたので、自分に合っているかが大事だと気づくには時間がかかりました。

hirayama : 20代の頃は僕も機能性よりもファッション性でしたよ。当時のANALOGのセットアップなんて、エナメル素材のダウンはペラペラですぐに破れるわ水は染みるわ、パンツはスキニーのようにタイトで動き辛いわ(笑)。それでもカッコイイと思っていたから不満もなかったし、それはそれで幸せなスノーボードでした。僕の場合、BURTON X8に乗った時に「自分にピッタリ合う板はコレだ!」って身体で分かったんです。そして、板が合うと上手くなるんですよね。板1つでこんなにも世界が違うのかと驚いたのを覚えています。それ以来、スノーボードギアの選び方は「格好良く居たい」から「心地よく居たい」に変化していきました。

moro : 自分に合う道具をお勧めしたい一方で、MOJANEには最もハードな板と言われているエリックジャクソンのイージャックに乗る40代も健在ですからね。僕はそういった諸先輩方からも多くを学びました。スノーボーダーとしての美学、信念、やせ我慢(笑)。

hirayama : その年代の方々が貫いている姿は本当に格好良い。スノーボードはこうでなきゃってのを守ってくれていますよね。時代毎に「この板を乗りこなすことがカッコイイ」っていうステータスもありますし、ライダーが乗っているブランドやモデルはモチベーションに繋がります。乗り易さだけで気に入らないボードを押し付けられてもテンション上がらないですからね。格好良さを求め続けるのも、大会でガンガン結果を出すことも、楽しみを追求することも、全部がスノーボードとして正解だと思います。人それぞれに選ぶポイント、譲れないポイントを持って道具選びが出来ると良いですよね。

平山雅一くん

moro : グラフィックも大事だし、目新しい物も試したい。僕の場合、お店としての物選びも同時にあるので、自分の為の道具選びに迷走した時期もありました。無理なボードで大怪我をしたこともあります。自分に合わない道具には、そういったリスクが潜んでいる事も知ってもらいたいです。そんな中でCUSTOM X-FV(BURTON)は、自分にビタっと合う感覚を味わえた板でした。その体験が自信を持ってお客様にお勧めできるきっかけになったし、自分なりの比較ポイントを持つことが出来たと実感しています。

hirayama : 今の時代、板が合えばそれまで出来なかった事まで出来てしまうんです。トリックの出来る出来ない、このラインを取れる取れないって、ほんの数センチ、数ミリの違いだと思うんですね。例えば、パウダーでノーズが刺さって転倒したり減速してしまう場面でも、板を変えることで一番いいギリギリのところで加速できたり、イメージした動きに近づけたりする。僕はX8で自分に合った物選びに目を向けることになり、ジェイミーC2BANANA(LIBTECH)でシチュエーション毎にボードを使い分ける楽しみを見つけ、TRICK PONY(BURTON)によってパフォーマンスの向上を実感し、UMLAUT TWINではイメージに捕らわれず乗ってみることの大切さを知りました。どれも僕の中の名機です。

スノーボードとの運命的な出会い

90年代スノーボードシーンと平山少年

moro : そもそも、平山くんがここまでスノーボードにハマってしまったのは何故かを探っていきたいと思います。人生初のスノーボードを覚えていますか?

hirayama : 高校1年生の冬休み、友達に誘われたのがきっかけです。量販店のスノーボード3点セット19800円みたいなものを買ってもらい、テイネオリンピアの白樺ラインでデビューしました。もう、初めて滑ったその瞬間からハマっちゃって。コケてただけなんですけど、それだけで楽しかったんです。その日はゲレンデを降りるまでに30分もかかって、ギリギリターンができるくらいになったかな。ターンが出来るようになると一気に楽しさが増すんですよね。翌朝は起き上がることも出来ない位の全身筋肉痛(笑)。それでも、今すぐにでも滑りに行きたい!って感じでした。

初めてのプロショップ、MOJANE中島店長の衝撃

平山雅一くん|かもい岳スキー場

hirayama : スノーボードにハマって2年目、どうせやるなら専門店でちゃんとした道具を揃えたいと親に頼み込みました。狙っていたのはジムリッピーモデル。札幌市内のスノーボードショップは全部回ってやろうと意気込んでいました。今は無きYESそうご電器のレンタルコーナーで借りたビデオ(メルトダウンとスタンダードフィルム)で、命がけで崖のような所を滑って、かつバックフリップを決める姿に感化されたんです。こいつは滑れるし飛べるのか!ジムリッピーみたくなりたい!って(笑)。

moro : 伝説のジムリッピーモデル!レイブン柄のデザインでしたよね。当時は札幌中心部だけでもたくさんスノーボードショップがありましたけど、虱潰しで回ったんですか?

hirayama : そう、色んなお店で「リッピーが欲しいんです」って(笑)。どこの店員さんも「いいですよね、格好良いですよね」って言うんですよ。何件巡っても同じ反応だったので、やっぱり間違っていないんだなと思って狸小路を歩いてたんです。そしたらたまたま、1丁目で怪しげなスノーボードショップを見つけたんです。それがMOJANEでした。

諸橋(左)と平山くん(右)

hirayama : MOJANEにもリッピーのボードが飾ってあって、これが欲しいんだと店員さんに伝えると「へぇ、そうなんだ…」って、反応が悪いんですよ。当時の店長、中島さんです(笑)。「君、何年目?去年何回滑ったの?」という感じで尋問(?)を受けて「これは君にはまだ早い」と言われてしまったんです。代わりに勧められたのがBURTON CUSTOMでした。僕からすると何だこの人、って感じじゃないですか。結局、その日は検討しますという事で、また他のお店へ足を運んだんです。するとやっぱり他の店員さんは「リッピーいいですよね」って言う訳ですよ。

まだインターネットなんてほぼ無かった時代でしたけど、帰って自分なりに調べると、リッピーはどうやら難しい板だっていう事が分かって来るんですよね。そして、CUSTOMはいいぞっていう話も出てくるんです。なるほど、あのショップだけがその話をしてくれたよな、という事でMOJANEに通うようになりました。中島店長にはその後、大きな影響を受けていくことになります。

進学か就職か。人生を変えたハイカスケード

moro : アメリカのマウントフットでのスノーボードサマーキャンプ、ハイカスケードに参加したという話は、これまでなかなか聞く機会がありませんでした。当時はSNSやスマホもない時代、どの様な経緯で?

hirayama : ハイカスケードの存在を知ったのは高校生の頃でしたが、参加出来たのは19歳と20歳の2回です。マックダウのDVDなんかを観ていると、バナーにハイカスケードって書いてあるじゃないですか。みんな裸で滑ってるんですよね。岩肌は見えているし、雪質も空の色もどう見ても冬じゃない。夏を持て余していたから、興味が湧きました。1年中滑っていたいという夢が叶う場所があると知ったんです。

moro : 話題のスノーボードキャンプでした。スノーボード雑誌にも、ハイカスケードの広告が出てましたよね。

hirayama : まずは無料資料請求です(笑)。コーチは日本のパイプ第一人者、渡辺伸一さん。渡辺さんが1080を回す事は知っていたので、これは是非行きたい!とワクワクしましたね。当時は皆と同じように大学進学の為に勉強をしていたのですが、頭の中はスノーボードで一杯で、どうしたらスノーボードが出来るかばかりを考えていました。そこで、いち早く社会人になってお金を稼ぐことを選んだんです。早く自分のお金で道具を買って滑りたかった。そういった経緯があって、就職して2年目の夏、有休とお給料を可能な限り貯めてようやく念願のハイカスケードキャンプ(9泊11日)に参加することが出来たんです。

moro : ぼくはてっきり学生時代の自由な時間を使って参加したのかと思っていました。スノーボードの為の大きな決断があったんですね。若い頃は夢を追ったり、好きなことを仕事にしたいと思いがちですが、高校生の時点で仕事は仕事、と割り切れていたことに関心します。

hirayama : プロを目指したい、という憧れもありましたよ。当時、新潟に新設されたスノーボード専門学校に進学したいという思いもありましたが、やはり親を説得できませんでした。なので、可能な限りスノーボードができる生活環境を作る事を最優先して、今の会社に就職することを決めたんです。就職試験の結果がダメならその時考えよう、といった感じでした。

moro : 実際にマウントフットで初めての海外を体験し、本場のスノーボードに触れたり、外国人と一緒に滑ることで得たものはありましたか?

hirayama : 海外といいつつ日本人が集まってのツアーだったので、車移動も日本人だけだし、パイプも貸し切りのジャパンオンリーでした。ただ、プロは入ってこれるんですよ。ダニエルフランクが入ってきたり、ピーターラインが入ってきたり。憧れのリッピーにも会えたことは良い思い出です。ダニエルフランクが晴れ待ちをしている場面では、こうやってビデオは作られるているんだという一辺を垣間見ました。あと、電車やスーパーマーケットなどの現地の生活感は刺激になりましたけど、海外のスノーボードに関して衝撃を受けるのは、後に行くことになるカナダやヨーロッパでのことになります。

雪の無い冬、函館での5年間

インタビューに答える平山くん

moro : 高校を卒業して、まずは計画通りに就職することが出来た。念願のサマーキャンプにも参加した。そこから思い描いていたスノーボード生活が待っていた訳ですね?

hirayama : それが、そう上手くはいかなかったんです。入社後、1カ月間の研修を経て辞令をもらう日が来るんですけど、出身地近郊に配属されるはずが、何故か僕だけ函館での勤務を告げられてしまったんです。スノーボードの為に就職したっていうのに、北海道で最も雪の少ない土地へ。その時はショックで固まってしまい、言葉も出ませんでした。

moro : 18歳には厳しい現実ですね。雪山が遠くなり、それまでのペースでスノーボードも行けなくなったと思います。スノーボードへの関心やモチベーションはどの様に維持したのでしょうか。

hirayama : もう、とにかく滑りたい一心でした。仕事を直ぐに辞めることも出来ませんし、札幌に戻る道が閉ざされている訳ではないと試行錯誤していました。札幌に戻るには、倍率の高い試験に受かる必要があって、その狭き門を通るのに4年もかかってしまいました。函館では横津、七飯、二ヤマで滑ったり、函館から3時間で行けるルスツまで足を延ばしたり、札幌の実家に帰ってきては「札幌に住んでいたら帰宅時間を考えず滑れるのに」と悔やんでいました。そんな日々を過ごす中で23歳の時に札幌への転勤が決まったんです。その時の上司の方には本当に感謝しています。

内向的な性格をスノーボードが変えた

みんなをリードする平山くんのライディング

moro : その頃僕は大学生で、週末というとMOJANEに居座っていたんです。お店に来る個性的なスノーボーダーを見るのがとにかく楽しくて。平山くんの存在は中島店長から聞いていました。「歳も近いし、とにかく滑ってるから一緒に滑ってみたらいいよ」って。お店で見かけたら「こんにちは」くらいの挨拶をしていたんですけど、覚えていますか?

hirayama : すみません、実はモロさんの初対面のイメージは既にお店に立っている姿なんです(笑)。若い頃は本当に人見知りで、人と目も合わせられない程でした。他の人のパーソナルな情報よりも自分のギア選びに夢中だったし、MOJANEの人たちとの関わりもありませんでしたね。MOJANEツアーも怖くて参加できませんでしたよ。やっと皆と滑ろうっていう気持ちになったのは、モロさんがMOJANEのスタッフになって誘ってくれるようになってから。ツアーや試乗会でMOJANEのお客さんたちと知り合うことが出来て、徐々に輪が広がっていきました。

moro : 印象に残っているのは、平山くんはカービングでも思いっきりダッグスタンスでいくんですよね。僕はカービングの時はスタンスを変えていたので「変えてみたらいいですよ」って平山くんにアドバイスしたことがあるんですよ。そしたら「いや、僕はこれが気持ちいいんですっ」って颯爽とダックのまま行ったんです。でもそのスタンスでエッジが入っていたのを覚えていますよ。これで行けるのか!って思いました。

hirayama : 僕はJSBAのインストラクター資格を取得する過程でスノーボードの基礎を学んだので、元々は綺麗にカービングする為にはスタンスはこうで、足を前に降って膝をこう入れて、手の位置はこう、っていうのをちゃんと気にしていたんですよ。ただ、海外でそんなことしている人なんていなくて、みんな自由に楽しく滑っていたんです。そういった刺激がどんどん自分を変えていったんじゃないかと思います。スノーボードの為に海外に行っていたんだけど、行く度に、考え方や視野のようなものが育ったというか。スノーボードに出会った事が内面でもターニングポイントになったと思っています。

視点を変えればそれはマッシュ

平山雅一くん|かもい岳スキー場

moro : 僕が平山くんと一緒に滑り始めたのは2008年頃。ノートラックのパウダーではなく、みんなが遊び終わってボコボコに荒れたパウダーを選ぶ平山君に驚きました。僕はマーク・ランドビックに感銘を受けていたので、理想が目の前に現れた!という感じで嬉しかったんです。荒れたパウダーや午後からのダウンヒル。そういったオリジナルの遊び方はどの様に生まれてくるのでしょうか。

hirayama : 遊び方として意識はしてませんけど、身の回りの様々な要素が絡んでそうなっていくんだと思います。例えばMOJANEにはいつも海外のDVDがたくさんあって、そういった映像作品に影響を受けてきました。ランドビックは特にカッコ良かったですね。2007-8年のエステティカを観て「これだ!」と思いました。正にあの時ですよね、マッシュで飛ぶっていうのは。それまで崖やジブはありましたけど、マッシュにフォーカスしたシーンは鮮烈でした。

hirayama : それで僕はゲレンデ内でマッシュを探していて、荒れたパウダーの窪で飛べそうだと思ったんです。僕にはキッカーに見えていたんですよ(笑)。やり始めたらそれがまた面白い。コブは溝を滑っていくだけが正解じゃないって思ったし、今まで培ってきたトリックも出来る。北海道は午後もパウダーが贅沢な位残ってるんですよ。ランドビックを知って、これは俺がやりたいスタイルだ、って思いました。エステティカのランドビックと、ネバーランドのニコラスは今もシーズン初めに必ず観ています。オープンバーンはランドビックみたいに滑りたいし、込み入ったところはニコラスみたく滑りたい。彼はレギュラーもスイッチも関係ない、そこが一つの教科書であり、ターゲットです。

インタビューに答える平山くん

中島店長の「カナダに行けば分かるよ」

hirayama : 身近なところでは、中島店長の滑りもそうでした。カービングとかワンメイクとか、ジャンル分けがハッキリしていた当時、グラトリなのかジャンプなのか、ターンの延長なのか全く区別がつかないような、異質な滑りだったんです。なおかつ、それをゲレンデ内でやっているんですよね。その独創的な滑りに憧れて、どこからその発想が生まれたんですか、って中島さんに聞いたんです。すると、「それはね平山くん、カナダに行けば分かるよ。ウィスラーとバンフってところがあるから。」って。マジすかってなったっすよね(笑)。早速チケット取って1人で行きました。

moro : 僕らにとって中島さんの影響力は半端じゃなかったですよね。「モロ、海外興味ないの?」の一言で僕、留学しましたよ(笑)。ひと言で背中を押す力があった。スマホもSNSも無い時代、行動することでしか知れないものが沢山ありました。実際にカナダに行って、その答えは分かりましたか?

hirayama : 僕、滑るスピードには自信があったんですけど、カナダでは50度の岩だらけという斜面で、現地スノーボーダーにガンガン抜かされていくんです。1月中旬のまだ雪も付ききっていない、岩だらけのライン1本。お爺さんも子供も皆そこ行くんですよ(笑)。遊び方もスピードも全く違う、中島さんの言った意味がやっと分かった気がしました。ジャンルではなく、山全体を遊ぶっていう感覚が見えたんです。結局、DVDで観る映像もそういった滑りなんですよね。そのごく短いワンシーンの前後には、きっとこの滑りがあるんだ、って分かったんです。俺もこういう滑りがしたい、北海道なら出来るんじゃないかって。新品だった板が帰る頃にはベコベコになっていましたけど、良い経験でした。

平山 雅一くんのライディング

スノーボードはメンタルスポーツ

moro : 朝から晩までずっと滑り続ける平山君の強靭な体力は、若手も音を上げてしまう程。みんな「最後までついて行けませんでした」って報告に来ます(笑)。平山くんの疲れた姿を見たことが無いのですが、そのスタミナやパワーはどこから来るのでしょうか。

hirayama : 要素はいくつかありますよ。まず一番にあるのは、とにかく滑りたいっていう気持ちです。それでも体が重い日や、疲れを感じる日もありますよ。ただ、心ひとつだと思うんです。極度の寝不足や疲労はもちろんダメですけど、スノーボードを気だるくネガティブにやらなくてもいいじゃないですか。そのメンタルによってパフォーマンス落とすのはもったいないし、皆で滑るなら尚更です。時間もお金もかかるこのスポーツが出来ることは貴重な事だし、幸せなことだと思うんです。そういった面で、人よりポジティブに捉えようと意識しているかもしれません。それが体力に繋がっている。良いパフォーマンスの背景には必ず気持ちがあると思っています。メンタルを作りすぎて飛べないキッカーを飛んだらそりゃ怪我しますけどね(笑)

moro : 良い日、良いセッション、良いライディング。スノーボードの刺激や経験にメンタルがくっついて原動力になっている、そう思うと納得です。でも、人にプレッシャーをかけたり煽ったりしない平山くんがその捉え方・追い込み方をしているとは意外でした。

hirayama : 年齢を重ねるにつれて、一緒に滑れる人もだんだん少なくなってくるじゃないですか。同世代なら煽り合うような遊び方も楽しめるけど、若い世代にはジェネレーションギャップでストレスかけちゃうんですよね。最近は若い子と滑る機会も多いので、「あ、これはやっちゃいけないんだな」っていうのもだんだん分かってきましたよ(笑)。やっぱり人と滑るのは楽しいし、もっと人と滑りたい。その為には相手に合わせて自分を変えて行く事も大切なんですよね。

夫、父、スノーボーダーとして

平山 雅一くん

moro : せっかくなので家庭の話も聞かせてください。たまに平山くんが娘さん(3歳)と一緒にお店に来ると「あぁ、ちゃんとパパやってるんだ」って思います(笑)。春には第二子の誕生を控えているとのことですが、奥さんは平山くんのスノーボードをどう捉えているのでしょうか。家庭とのバランスを保つ秘訣があれば教えてください。

hirayama : 妻は当然、夫婦・家族と時間を過ごして欲しいという気持ちでいると思います。でも、僕は結婚前からずっとこんなだし、僕がスノーボードを中心に生きてきた事も知っているので、家族との時間も作ってくれるならという条件で理解してくれています。何度か一緒にゲレンデに行った事もありましたけど、滑り始めちゃうとただただ集合した、っていう感じになってしまってダメでしたね(笑)。今は、僕の中で「自分が滑った分と同じ分の時間を家族に使う」って決めているんです。週2回の休日のうち、1日は僕の自由に過ごさせてもらって、もう1日は家族との時間、っていう感じです。

moro : 独身の頃のようにはいきませんし、家庭・仕事・スノーボードの狭間で葛藤している人も多いと思います。そこはやはり家族の理解と支えが重要になりますよね。MOJANEとしても、ユーザーの皆さんの協力なしに今の活動はでませんので、平山くんの奥さんには頭が上がらない思いです。この場を借りてお礼を言わせてください。ありがとうございます!

hirayama : スノーボードをさせてくれるという理解もありますが、僕の事を分かってくれて、どうしたら家庭が上手くいくかを考えてくれている事に感謝しています。僕、滑りに行けないとストレスが溜まるんでしょうね、どんどん元気が無くなるし、人として落ちていくんですよ(笑)。そうすると家庭の全体的なところが悪循環になりますから、皆良いリズムで居られるようにって思います。夫、父、スノーボーダー、その全てで居させてくれる妻と娘には本当に感謝しています。

仲間が滑りの幅を広げてくれる

同僚でもあるスノーボーダー3人

moro : かなり前の事になりますが、同世代4人(平山君,緒畑君,タクちゃん,諸橋)でルスツに滑りに行った事、覚えていますか?僕あの日、思いっきり行くぜ!って意気込んで臨んだのですが「もっと滑れるようになりてぇ」って相当落ち込んだんです。みんな1本目からガンガン攻めてて、普段とスピード感も全然違うし、危うくてヒヤッヒヤですよ。前に出たかったけど、まともについて行ったら怪我するんじゃないかと思って、何もできなくて。それでも、凄く刺激的な一日だったんです。

hirayama : そうだったんですか!?僕にとっては歴代ベストっていう位めちゃくちゃ良いセッションでしたよ。午後4時までビッチリね(笑)。あの頃はまだ皆で滑ってもどこか遠慮があったりして、慣れてなかったんです。でもその日は同年代の打ち解けてきたメンバーで、雪もバッチリ当たって、今日は良い日になるぞっていう感覚がありました。僕は当時横の動きが使えなかったから、モロさんの横に動いてキレイにスプレーを上げる動きは刺激的だったし、三者三様の滑りを見て、やっぱスノーボードってすげぇって思いましたよね。スノーボードをたくさん見てきたつもりだったけど、まだまだあるぞ、もっと広がるぞって。帰りの車内では、次の世界に向かうみたいな高揚感でいっぱいでした。

moro : 当時はスマホも無い時代で、気軽に写真や動画を撮る事も無かったですしね。スノーボードをしていてこんな気持ちになるんだなっていう不思議な感覚でした。その場でしか味わえない化学反応が起こっていたのかも知れません。自分達で出来る事がまだまだたくさんあるんだなって気付かされました。

hirayama : あの日をきっかけに、もっと幅のあるスノーボーダーになりたいと思ったし、セッションっていう言葉の意味がやっと理解できました。勝った負けたじゃなく刺激し合えたっていうのが大事なんですよね。今もあんなセッションがしたいって思ってます。とにかく熱くて楽しい、あの気持ちは忘れられません。

HIRAYAMA CLASSICのステッカー

HIRAYAMA CLASSICの誕生

moro : 皆がある瞬間にバチっとハマる感動は、実際に体験して初めて分かる事。僕は、環境に左右されないスノーボードはMOJANEだから知れたと思っているんです。ノートラックやパウダーみたいな環境ばかりを追い求めるんじゃなく、吹雪いてても、荒れてても、パウダーじゃなくても、刺激し合える仲間が大事だなって思います。MOJANEに来店する若い子から「一緒に滑る仲間が欲しいんですけど、どうやって仲間を作るんですか」ってよく聞かれるんです。SNSやアプリで仲間を探すのも良いけど、「とにかく滑れ」としか言えないですよね。自分の姿を見せてアピールして仲間を作っていく、逆に僕らはそれしか知らないですからね(笑)。

hirayama : そうですね。実はあのルスツでの一日が、今僕が一緒に滑りたい人が集まっている”HIRAYAMA CLASSIC”の起源になったと思っているんです。CLASSICのメンバーは、滑っているときに背中から生き様が出ているような人、出てきそうな人、っていうのを基準にしていて。上手い奴なんていっぱいいるし、カッコいい奴もいっぱいいるんだけど、自分の熱い滑りを持っているスノーボーダーと一緒に滑っていたいし、仲間になりたいし、出会いたい!と思っています。

BCに辿り着けない位ゲレンデが面白い

平山雅一くんのライディング

moro : バックカントリーやサイドカントリーへのアプローチが盛んになっている昨今、平山くんほどのスキルと経験があれば、興味を持つのはごく自然だと思うのですが、いつも「まだ俺には早い」と言ってますよね。その真意は?

hirayama : 理由は沢山ありますけど、純粋に本数滑りたいんですよね。自分の足で登ると滑れる本数が限られるじゃないですか。1本にかける気持ち良さっていうのもあると思うんですけど、今の自分は身に付けたい技や試したい動きがまだまだあるんです。特に北海道はゲレンデも多彩で豊富だから、ゲレンデ内がめちゃくちゃ楽しいっていう段階なんですよ。まだ行った事のないゲレンデも沢山あります。だから、バックカントリーに全然辿り着いていない状態なんだと思うんです。

そりゃ、海外のようなナチュラルなマッシュで720を試したい!っていう気持ちはもちろんありますよ。だけど、今僕が死んだら家族が大変なことになる。人間て、極致に立った時に欲望を選んでしまうものだと思うんです。いくら経験やスキルがあっても、絶対に間違いは起きるし、自分がいくら気を付けていても巻き込まれることもありますからね、最後は運っていうところに来てしまう。あのクレイグ・ケリーが死んでしまうんですよ、まだまだその身じゃないっていう感じです。現状で決め過ぎず、その時その時のスノーボーディングを楽しんでいたいと思っています。

固定観念に捕らわれない平山流のギア選び

チューンナップを加えた4点セットという発想

moro : さて、ここからは今期のギア選びについて聞かせてください。平山くんの今シーズンのセットアップ(BURTON CUSTOM X,UNION FALCORE ,DEELUXE DEEMON )は、MOJANEとしても注目しています。スノーボード界全体にBURTONにはBURTON、CAPITAには UNION というボード×バインディングの筋書きができている中で、BURTONにUNIONを乗せるという選択は、新時代の予感がします。この組み合わせは邪道かなと迷っている間に、平山君は抵抗を持たずにどんどん試していきますよね。今期の平山君のチョイスの理由と狙いを教えてください。

hirayama : 僕の選び方は直感ではなく熟考型で、一応自分の中にセオリー的なものはあるんですよ。各アイテムから説明すると、まずCUSTOM Xはメインで使っていた10年前のキャンバーを新調したという感覚です。今期のCUSTOM Xは、従来の持ち味+より動かせる僕好みの仕上がりだったという事と、ソール(WFOシンタード)で選びました。去年までのCUSTOM Xなら今年のPROSESSを選んだと思います。DEELUXEのブーツは、しばらく使っていなかったので試したいという好奇心です。残念ながらブーツは買わないと試せないですからね。末端冷え性なので、暖かいという評価も聞いているので、期待しています。そして、今年はなんと言ってもUNION FALCOREが気に入ったんですよ。シェルや全体のボリュームを考えるとFALCOREにバッチリ合うブーツの候補はやはりDEELUXEだ、という経緯です。

BURTON CUSTOM X 2019
BURTON CUSTOM X
UNION FALCORE 2019
UNION FALCORE
DEELUXE DEEMON TF 2019
DEELUXE DEEMON TF

hirayama : 更に厳密に言うと、ボード、バインディング、ブーツの3点ではなく、モロさんのチューンナップを加えた4点セットで考えています。最近は取り回しが良くしっかり噛む板に乗りたいと思っていて、その組み合わせが難しかったんですけど、CUSTOM Xを試乗した時に、モロさんのチューンナップをイメージして、FALCOREで行けるなっていう感覚がありました。普通のチューンナップなら僕には難しい組み合わせです。MOJANEのチューンナップ抜きで選ぶなら、FALCOREではなくULTRA LTDになっていたと思います。

僕が滑るフィールドのメインは、大きいゲレンデで良い雪の日が多いんです。前日に降雪が無くても北海道のグルーミングバーンは柔らかいじゃないですか。そうするとCUSTOM Xの定石とされているXBASEやCARTELっていうのは自分の滑る範囲ではオーバースペックだと思うんです。そこまで固める必要はないし、僕が求めるプレイフルな仕様にしたいと思った時に、UNION FALCOREを付けることによって動けるCUSTOM Xが更に動かせる板になる。どちらもレスポンスが良いですから。NOWに比べると自由度が高い分、助けてくれる部分の無い難しいビンディングだと思うんですけど、そうなったときにモロさんのチューンナップが補ってくれるんですね。それがこの4点セットに集約されているんです。

moro : チューンナップ次第でギア並みの違いが生まれることは僕も実感していますが、4点セットという発想はとても嬉しい意見です。エッジ次第で、道具選びも大きく変わっていくという事ですね。組み合わせで悩んでいる方にとって、チューンナップが解決の糸口になるかも知れませんね。

全ての持ち物を活かすギア選び

ギアのマッチングについて語る平山くん

hirayama : 僕の場合、長期的な目線でギアを選んでいて、今期選んだボードとバインディングも、必ずしも1つのセットアップとして考えていません。TPOに合わせて組み替えることを前提にしていて、限られた予算と自分の持ち物の中でいかに追加するギアが生きるか、色んな使い方が出来るか、といったマッチングを常に考えています。例えば、雪が締まったナイターでエッジを効かせたいならCUSTOM XにNOWを付けるし、場合によってはBURTON CO2を付けるイメージも出来ています。予算がある人なら、ここはXBASEになるのかもしれないですけどね(笑)。

moro : なるほど、シチュエーションやコンディションに合わせてワードローブの中から最適なコーディネイトを使うということですね。となると、このFALCOREがトリックポニーに乗ることも?

hirayama : もちろん、その可能性も十分あります。実際に試乗しましたが、トリックポニーとの相性は良かったです。それと、FALCOREはパークで遊ぶ上級者にはもちろん良いと思うんですけど、実はパウダーで乗る人にとっても凄く良いと思うんですよね。だから、シーズン通してみると、トリックポニーやYES.20/20に付けることも多くなると予想しています。

moro : 新しいギアを追加して、今の持ち物に新たに息を吹き込むようなイメージですね。スノーボードを始める際に購入したまま、ビンディングをつけっぱなしている人も多いじゃないですか。スノーボードの乗り心地に飽きてきたという人は是非、ビンディングを乗せ換えたりスタンスを調整したり、一歩踏み込んでみて欲しいです。

CUSTOM Xが簡単な板に変わる!?

CUSTOM Xについて語り合う二人

hirayama : モロさん、CUSTOM Xに関して夢のある話がありますよ。CUSTOM Xって凄く良い板なんですけど、コンペやカービング的な要素が強くて閉塞感もあるじゃないですか。しかもオーバースペックになりがちで。でも実は、バインディング次第でCUSTOM Xを簡単にすることも、更に動かせるようにも出来るんです。

moro : 確かに、この板にはこのバインっていう定説がライディングの幅を狭めているかも知れませんんね。CUSTOM XにCARTELやMALAVITA、知識や情報が少ないとこの組み合わせが正解なんだって思って終わっちゃうし、お店も無難なセットアップを進めてしまいがちですから。そういった意味で、平山君の組み合わせは参考になります。ダウングレードじゃないですけど、ビンディングを自分のイメージに近づける為のアダプタとして捉えているんですね。

hirayama : UNIONはCUSTOM Xのスペックをカバーできるビンディングだと思うんです。CUSTOM XとFALCOREの組み合わせは、CUSTOM X FVのような操作性とキャンバーの良さも活かすセットアップのイメージです。僕の持っているビンディングで言うと、これをNOWに変えることで、昨季までのような皆がイメージするXになったり、これをCO2に変えると本来メーカーの狙っているXになると思います。

moro : それは面白い!30代以上のスノーボーダーは、CUSTOM Xに乗りたい人が圧倒的に多いんです。憧れの的でしたからね。いつか乗りたいっていう気持ちに応えて開発されたFVもありますが、やはりキャンバーのXなんですよ。板だけでなくバインディングやチューンナップまで含めると、もっとパーソナルな要望に応えていくことが出来るし、もちろん従来のイメージ通りのCUSTOM Xにもできる。板の特徴をピンポイントで引き出せるかも知れません。

hirayama : 僕は、CUSTOM Xに憧れを抱いていた人に、チョイスによっては乗り易くて面白いものになるんだよっていうところで、少しでも乗るきっかけを作れたら面白いなって思っています。今ビンディングが凄く優秀な時代になってきたし、チューンナップでもこんなに変わることが分かってきた。本当の意味でのオールラウンドボードって存在しないとは思うんですけど、バインディングやブーツ、チューンナップによって、その時々の条件に対応できるようなCUSTOM Xを自分なりに作っていきたいと思っているんです。

まだまだ続くスノーボードライフ

ユーザーが願う試乗会の在り方

小規模試乗会の様子

moro : 平山くんがスノーボードを始めて20年以上経ちますが、ブランドやギアだけでなくショップやシーン全体も大きく変化しました。今、ユーザーとして思う事はありますか?

hirayama : エンドユーザーとしての切実な意見は、もっと試乗する機会が必要だということです。日程も予定もコンディションも限られた試乗会で1本のボードを選ぶことは、実際に難しいですよね。本当に良いもの、自分に合う物を探したいと考えている人にとって、レンタルや予約制や有料だとしても、じっくり試せる場が足りていないと思います。それと、ボードとビンディングは試せるけど、ブーツは試せない。成型が必要なものもあるので、難しいとは思いますが、大まかなサンプルを試せるだけでも僕たちは嬉しいんですよね。

moro : 確かに、スノーボードをする上で最も重要なアイテムが試せないのが現状です。店頭での試着だけでなく、1ライディングでも試すことが出来たら、よりパーソナリティに合った道具を提案することができますよね。販売する側としてとても重みがある意見です。

hirayama : ブーツは履いて滑ってみるまで分からないので、懸けみたいな物選びになっちゃうんですよね。もしサンプルブーツがあったとして、それを皆がテストしてヘタってしまったとしても、一般ユーザーはヘタった状態で履いている時間の方が圧倒的に長いですから、どれもリアルな使用感だと思うんです。そういった点も含みで、試せる機会を増やして欲しいです。車の様に試乗して買える事が理想です。

moro : 乗り物を選ぶという点では、額は違えど車選びと程遠くない感覚があると思います。家電やオーディオ、カメラなど、他の趣向品に比べても、スノーボードギアは極端にユーザーズレビューが少なくて、ブランドが用意した言葉に頼り切り、といった場面もよく見かけます。詳しい人は決して少なくないのに情報が留まってしまっている、物選びを難しくしているのはそこだと思うんですよね。

hirayama : 例えばオリンピックでライダーが使用していたボードや有名ライダーのシグネイチャーボードには、皆が注目しますけど、実際にそれが僕ら一般ユーザーにとって良いボードかというと、必ずしもそうではない。一般ユーザーは目も肥えているし感覚も鋭いから、乗る機会さえ増えれば反響は当然大きくなるし、結果的に良い物に注目が集まるようになると思うんです。ユーザーに歩み寄るフットワークの軽いメーカーが出てくることに期待しています

moro : そうですね。ビッグブランドやスノーボード業界を相手に、MOJANEのような小さなお店が影響力を持つなんて到底考えていませんが、このお店に並ぶアイテムは自信を持ってお勧めできるものを揃えていたいと思うんです。例えば大手で廃版になってしまうような板でも、カスタムメイドが可能なOFFSHORE SNOWSHAPESなら、欲しい板を再現して更に面白いアイディアを加えてくれるかもしれない。スノーボーダーひとりひとりのニーズに応えていけるようなお店づくりを目指したいです。

hirayama : まさに!今楽しんでレビューを引き受けているのも、そういったMOJANEの考えや追究心に共感しているからです。自分のレビューが活きている実感もあります。モロさんには、スノーボードショップのオーナーである前にスノーボーダーであり続けて欲しいですし、チューンナップを含めて、ユーザーにとって唯一無二のセットアップを提供し続けて欲しいと思っています。そういう場所にはスノーボードに対して熱い人たちが集まってくるんですよね。クラッシックのメンバーが集まったように(笑)。そういった人たちを満たしてくれるようなショップであり続けて欲しいと願っています。僕はトリックポニーが廃版になっちゃった事がとても残念で。凄く良い板だったんですよ。ただ、「スイッチでもパウダーでジャンプをして、どんどんトリックを仕掛けていこう」っていうトリックポニーのようなボードの需要があるかと言うと、やはり少ないんですよね。良い板でもニーズが無ければ廃版になっちゃいますよね。沢山のレビューを見て、比較して、挑戦して、スノーボードに熱中する人がもっともっと増えれば、僕の求めるような板も廃版にならなくなるんじゃないかっていう期待感もあります。そういう意味でも、皆に良い板を選んでもらいたいと思うんです。

チューンナップの可能性

平山雅一君のライディング|夕方のぴっぷスキー場

moro : チューンナップに関してはどうでしょう、昨シーズンからは特にエッジに注目したテストを繰り返しましたよね。MOJANEとしても手ごたえを感じています。

hirayama : エッジは昨シーズンの取り組みの成果が出てきて、ワックスのチョイスも良い所まで来ている、次に追求できるんじゃないかなって思うところがソールです。エッジでこれだけ変わるっていうのが分かったので、次はソールも色んな解釈で手を加えていければ、それこそ1本の板で色々なシチュエーションをカバーできるようになるかも知れませんよね。エッジ、ワックス、ソールをこのまま追求していけば、スーパーチューンナップになるんじゃないかと期待しています。

moro : 次はとにかく走るソールですね。ソールの縦横の滑りが変化すれば、エッジの角度ももっと変わってくると思うんです。因みに今期CAPITAのボードでソールのチューンナップの実験中です。元々、1本の板を使って技術で遊び倒していた1990-2000年代から、様々なタイプの板を持つ時代になり、ここから本当の意味での1本で様々なコンディションに対応して遊べる板っていうのが叶うのかもしれません。それが実現すると、物を多く持たずにコンパクトに暮らすという時代の流れにもフィットするのかも知れません。

若いスノーボーダーに向けてのメッセージ

平山雅一くん

moro : ゲレンデでは平山君の滑りに注目が集まります。平山君の様に滑りたいと思っている若手も多いです。もっと上手くなりたい!というスノーボードビギナーに向けて、上達のコツやメッセージはありますか?

hirayama : とにかく楽しむことですよね。もちろん基礎は大事だけど、感性を信じて欲しいです。テク戦やビックコンペを目指すならメソッドが正解かも知れないですけど、スノーボードの楽しさはもっと深いところにあると思います。環境や常識に左右されずに、心が喜ぶ方法をチョイスして欲しいです。楽しいとそれだけたくさん滑るし、続くし、メンタルも保てる。仲間が増える、結果、上達していきますからね。

スノーボードは自分の中心にあるもの

moro : もっと話を聞きたいのですが、最後の質問です。平山君にとってスノーボードとは?

hirayama : 自分そのものです。スノーボードによって性格も人生観も変わりました。初めて滑った日からずっとライフワークの中心にあるものです。皆で楽しく滑れて、帰りの車内で「今日良かったなー!」って思って、お風呂上がりのビール一杯。最高じゃないですか。


平山 雅一くんのプロフィール画像
平山 雅一 Masaichi Hirayama

1982年生 174㎝/65㎏ レギュラースタンス
「パウダー、ジャンプ、カービング、グラトリ、ボーダーレスに全てをリンクさせた滑りが好きです。」
好きなライダー:ニコラスミューラー, マークランドビック, エーロエッタラ

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